復興のフェーズ

阪神・淡路大震災以降、復興過程に「生活再建」の視点が加わり、被災者が重要視されるようになりましたが、「被災者」の中にもさまざまなレベルがあることがわかったのもこの震災の特徴でした。

被災体験による4つのレベル

被災者は、“被災体験”の違いによって、以下のような4つのレベルに分類されます。

【生命】レベル
最も厳しい被災体験で、生命に関わる脅威や被害を受けた被災者層。命を落とした人はもちろんのこと、大切な人を失った人や、自身が大怪我や後遺症に悩まされるような人たちもここに含まれる
【財産】レベル
住宅や自動車など、大きな金銭面の被害に加えて、位牌や形見、思い出の品や写真など被災者自身にとってかけがえのない「財産」を失った被災者層
【生活支障】レベル
水道やガスなどのライフラインの長期にわたる遮断により、通常の生活に支障をきたしている被災者層
【恐怖心】レベル
身体的・物理的な被害はないものの、精神的に恐怖心を覚えた被災者層

[被災体験の4つのレベル]

これら4つの被災者層を、一様に扱うことはできません。なぜなら、災害発生当初はすべての被災者層が支援対象になりますが、“時間経過”と共にその範囲は変化していくからです。
まず初めに、身体的・物理的な被害がなく【恐怖心】のみを感じた層は、直接の被害がないことが確認できれば落ち着きを取り戻し始めます。次に、最も厳しい【生命】に属する被災者層は、生存の限界とされる「黄金の72時間」を境にして“生存者”と“死亡者”に分かれることになります。さらにライフラインの機能が回復すると、【生活支障】をきたしていた層も日常生活に戻ることができます。つまり、【財産】を失った層が、最後まで主な“被災者”であり続けることになり、【生命】の危機を経験した人と共に長い復興の道のりが待っているのです。

[時間経過に伴って変化する被災者の支援対象範囲]

被災者心理による4つのフェーズ

上記のように、“時間経過”と共に被災者の支援対象範囲は変化していきます。この時間経過には、「被災者の心理状態の違い」によって4つのフェーズから構成され、【応急対応期】と【復旧・復興期】という2つに大別されます。

地震発生から最初の1ヵ月程度が【応急対応期】です。短時間のうちにさまざまな心理的イベントが続けざまに起きて、ただひたすらその対応に追われます。一方、1ヵ月を過ぎると、これまでの目まぐるしさとはうって変わって時間経過がゆっくりと感じられ、一日が長く感じられる【復旧・復興期】に入ります。その背景に、被災者の時間感覚が、10時間(101)、100時間(102)、1,000時間(103)…のように“対数”尺度で進んでいくという特徴があります。時間感覚を含めて、人間の感覚は一般に対数尺度になっています。私たち人間は、小さな差異に敏感なのに対して、大きな差異には鈍感なもの。そのため、重さや明るさ、時間の進み方に関する人間の感覚は、その物理的強度の“対数”に変換されていくのです。

[被災者の時間感覚]

状況が目まぐるしく変化する【応急対応期】は以下の3つのフェーズに分かれ、それに【復旧・復興期】を加えて4つのフェーズに分類されます。

フェーズ0【失見当期】(101/災害発生〜10時間)
災害が発生すると、突然の出来事に誰もが自分の周囲で何が起こっているのかを客観的に判断できなくなってしまう状態に陥ります。このような心理状態のことを【失見当期】と呼び、およそ10時間以内に次のフェーズに移行するといわれています。
フェーズ1【被災地社会の成立期】(102/10〜100時間)
失見当期を過ぎ、安否確認や救助、避難行動などを行っているうちに、徐々に客観性を取り戻していきます。周囲の人々とも情報交換を重ね、非常事態になったことを理解し、当分の間不自由な生活が続くことを受け止めるようになるため、被災地独自の秩序が構築されていくといわれています。これを【被災地社会の成立期】と呼び、災害発生後の「10〜100時間」の範囲で見られます。
フェーズ2【災害ユートピア期】(103/100〜1,000時間)
被災地社会が成立し、災害発生から数日が経った頃になると、被災者同士が協力し合いながら日々を乗り越えていくフェーズへと入ります。年齢・性別・肩書きの区別なく強い絆で結ばれる善意に満ちた状態は【災害ユートピア期】と呼ばれ、発災数日後から1〜2ヵ月程度(100〜1,000時間)続くとされています。
フェーズ3【復旧・復興期】(104/1,000時間〜)
災害発生から数ヵ月が経つと、ライフラインが復旧することで、家屋の被害程度が軽少の被災者から自宅に戻り始め、仮設住宅の建設も進むため、“協働生活”から“個人生活”へと戻っていくフェーズとなります。ある種のユートピア状態から脱するこの時期を【復旧・復興期】と呼び、被災地に日常性が戻り、復興に向けた長い活動が本格化する時期を指します。このフェーズは、上記の【財産】レベルに属する被災者層が主に残された時期に相当しています。

被災体験による4つのレベルの変化も、被災者心理による4つのフェーズの移行も、“10の対数”という時間尺度で推移していきます。“被災者視点の復興”を考えていく上では、この「10の対数による時間軸」というものが最も重要な時間の尺度となっているのです。

[時間経過に伴った被災体験のレベルと被災者心理のフェーズ]

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